個人事業主として活動していると、次第に「法人化したほうがよいのだろうか?」という疑問が湧いてくると思います。
実際、多くの個人事業主が、売上が増えてくるタイミングで「法人成り」を検討しています。
当記事では、法人化のメリット・デメリットについて詳しく解説し、あなたの事業にとって最適な選択をするためのヒントをお伝えします。

法人成りの主なメリット

節税効果:税率が低くなる場合がある

法人化することで、個人事業主よりも有利な税率で税金を支払える場合があります。
個人に対する主な税金の一つが「所得税」です。
法人の場合は「法人税」がありますがこの2つの税金は利益(所得)に対して課税するという意味では近い性質の税金といえます。

所得税は、利益が増加にともない税率が高くなる超過累進税率という仕組みです。
所得税の最低税率は5%、最高税率は45%で、全7段階になっています。

課税される所得金額税率控除額
1,000円 ~ 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 ~ 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 ~ 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 ~ 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 ~ 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 ~ 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円以上45%4,796,000円
国税庁:所得税の税率表より

所得税率が7段階になっているのに対して、法人税率は2段階となっており、約16.5%~25.6%です。
所得税の上のほうの税率と比較すると、法人税のほうが低い税率になっています。

また、法人成りをした場合は、社長である自分に対して会社から給与を支払うカタチになります。
役員報酬などと呼ばれますが、これも法人の経費として計上できます。
この給与は個人に支払うので、所得税がかかってきます。
ただし、給与の額面に対してではなく、給与の額面から「給与所得控除」というものを引いた所得に対してかかる仕組みです。
同じ500万円でも、法人から給与として受け取る場合と、個人事業主で500万円の利益を自分の収入とした場合とでは、給与で受け取るほうが所得税が低くなります。

節税効果:退職金を支給して経費にできる

個人事業主でも法人でも、事業をやめたり、子どもに事業を譲ったりする時期がいつかやってきます。
最近では、M&Aなどで外部に事業を売却し、自らは事業から手を引くパターンも多くあります。

法人の場合は、自分が事業から離れる際、適正な金額であれば退職金を支給して経費にできます。
給与などと同じように、退職金にも所得税や住民税などが課税されるのですが、退職金の場合は税金の計算方法が他と異なり、給与と比較すると低い税金になる計算方法になっています。
そのため、事業を引退するとき、法人から退職金を支払って大きな経費をつくり、自分の所得税は低く抑えることができます。

節税効果:欠損金の繰越控除可能な期間が拡大する

欠損金の繰越控除とは、事業で赤字を出してしまったときに、翌年度以降に繰り越して、翌年度以降の利益と相殺できる制度です。
例えば、事業で100万円の赤字が発生し、次年度では300万円の利益が出た場合、300万円から前年度の赤字を差し引いた200万円に税金がかかります。
ただし、前年以前に発生した赤字は、永久に繰り越せるわけではなく、期間に制限が定められています。

個人事業主の場合、この繰越期間は翌年以降の3年間です。
一方、法人の欠損金の繰越期間は10年間なので、赤字を繰り越せる機関が個人事業よりも長くなっています。

※欠損金の繰越控除は、個人・法人ともに青色申告が要件ですので、白色申告の場合は利用することができません。

節税効果:消費税の納付が最大2年間免除される

個人事業主から法人成りした場合は、消費税の納税が最大2年間免除される場合があります。
消費税の納税を免除するためには、大きく3つの条件を満たす必要があります。

条件1:資本金の額が1,000万円未満である

新設法人が消費税の納税義務を免除されるためには、事業年度の開始の日における資本金の額が1,000万円未満である必要があります。

条件2:設立1期目の事業年度開始の日から6ヵ月で売上が1,000万円以下もしくは給与等支払額が1,000万円未満である

設立1期目の事業年度開始日から6ヵ月の売上金額、あるいは給与等の支払額が1,000万円未満である必要があります。
1,000万円を超えた場合は、翌事業年度から消費税の納税義務者となります。

条件3:適格請求書発行事業者になっていない

消費税の納税義務を免除されるためには、適格請求書発行事業者ではない必要があります。
2023年10月からスタートしたインボイス制度により、法人を設立した後に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、適格請求書発行事業者(インボイス事業者)になる方が増えています。
インボイス事業者として登録しておかないと、取引先との契約できなかったりするためです。
条件1と2を満たしていても、適格請求書発行事業者であれば消費税納税の義務が発生します。

事業承継しやすい

個人事業主が自身の事業を子どもや他人に承継する場合、これまで締結していた契約や事業に必要な許認可などを、承継した人がすべて取り直す必要があります。
法人の場合、事業の経営だけであれば、代表取締役を変更するだけで事業を継続できます。
契約を結び直したり、許認可を取り直したりする必要はありません。

社会的信用が向上する

法人化することで社会的な信用力が向上します。
これは、とくに取引先や金融機関との関係において重要です。
法人であることで、取引先や銀行に対する信用力が高まり、融資を受けやすくなったり、資金調達がししやすくなったりします。

法人成りのデメリットや注意点

設立費用や維持コストがかかる

個人事業を始めたい場合は、税務署に開業届を提出するだけで開始できます。
しかし、法人を設立する場合は、登録免許税や専門家への代行依頼費がかかります。
自身で設立手続きを行う場合でも、株式会社の場合は24~25万円の費用が必要です。

また、法人の各種手続きは複雑なため、多くの人は設立後も税理士などの専門家に顧問を依頼するため、その費用もかかってきます。
お金の管理においても個人事業主と異なり、経理事務にかかる時間が増えるでしょう。

社会保険の加入義務がある

法人になると社会保険に加入する義務が発生します。
社会保険料は、事業を経営するうえで、非常に大きい負担になってくることがあります。
健康保険と厚生年金の料率を合わせると約30%にのぼります。
例えば、50万円の給料の従業員がいた場合、50万円の30%、15万円が社会保険料として発生し、個人と法人で半額ずつ負担することになります。
従業員数が増えるほど大きい負担になる可能性があります。
節税につながるからといって安直に法人成りをしてしまうと、むしろ社会保険料で余計に負担が増えてしまいかねません。

赤字でも税金が発生する

個人事業主の場合、利益が出なかった年度は、基本的に税金はかかりません。
しかし、法人の場合は、赤字でも法人住民税の均等割というものが約7万円かかってきます。

法人成りを検討するタイミング

個人所得が695万円~900万円のラインを超えるとき

個人の所得が695万円~900万円のラインにかかってきた場合、所得税の税率は23%となり、法人税の税率と逆転するケースがあります。
税金の計算は単純な利益で計算するわけではないので、実際はシミュレーションしてみることをオススメしますが、所得がこのラインにきたときには、法人成りを検討する目安といえるでしょう。

事業拡大に伴い融資や雇用を拡大するとき

事業をこれからもっと拡大していきたいとき、運転資金や設備投資などが必要になります。
銀行などの金融機関から大きめの融資を受けたい、外部の資本をいれて事業投資に回したいといった場合は、法人のほうが圧倒的に有利です。
また、従業員の雇用においても、人材不足の社会情勢の中、個人事業主のところに率先して応募してくる人は少ないです。
人材確保の観点でも法人のほうが有利にはたらくでしょう。

まとめ

法人成りのメリットやデメリット、法人成りを検討するタイミングなどを解説しました。
節税にはならなくても、事業拡大のための資金調達や、雇用拡大が必要なタイミングに法人成りを考えてみましょう。
節税を目的とした法人成りの場合は、必要な要件やスキームをきちんと想定しておく必要があります。
まずは税理士などの専門家に相談してみることをオススメします。