会社を設立するには資金が必要ですが、「現物出資」を使えば資金が足りなくても会社設立が可能です。
現物出資とは、現金ではなく物や権利を資本金とする方法です。
たとえば、不動産や自動車、特許権などが現物出資として使われることがあります。
この方法が役立つのは、手元に現金はないが活用したい資産があるという方です。
ただし、資産を適切に評価する手間がかかることや、税務面での処理が複雑になる可能性もあります。
本記事では、現物出資の手順や注意点を解説します。
このページの目次
現物出資とは?
現物出資とは、会社を設立する際に、現金以外の資産を資本金にできる制度です。
現物出資の対象となるのは、車両や機械設備、不動産などの有形固定資産、特許権や商標権などの無形固定資産です。
現物資産を利用し、資本金の額をより大きくすることで、会社の信用力を上げたり、金融機関からの融資を受けやすくすることができます。
現物出資として認められる資産の例
現物出資の対象となる財産は、貸借対照表に資産として計上できるもの(金銭で価格を評価できるもの)、かつ譲渡可能なものに限られます。
そのため、譲渡禁止債権や一身専属権、金銭評価できないものは、現物出資の対象とすることはできません。
現物出資の対象となる財産の例
- 動産(商品、原材料、機械、パソコン等OA機器、事務用品、自動車、等)
- 不動産(土地、建物、マンション、地上権、賃借権、等)
- 有価証券(株式、社債券、国債証券、地方債証券、等)
- 知的財産権(著作権、商標権、特許権、実用新案権、営業権、鉱業権、等)
- のれん(得意先関係、仕入先関係、営業上のノウハウ、等)
- 金銭債権(会社への貸付金債権、等)
- その他(営業の全部または一部)
上記にある債権を現物出資するには、下記の要件を満たしている必要があります。
- 弁済期が到来していること
- 当該金銭債権の金額、債権者名について記載のある会計帳簿(総勘定元帳など)を、登記申請の際に提出すること
現物出資が認められる要件
「発起人」が現物出資する
会社設立時の現物出資ができるのは「発起人」のみです。
発起人とは、会社の設立を企画立案し、定款の作成や資本金の出資を行う人をいいます。
発起人は、個人だけでなく法人がなることも可能です。
なお、会社設立時に現物出資をできるのは発起人のみですが、設立後に資本金を増資する場合は、発起人以外でも現物出資を行うことが可能です。
現物出資の財産を定款に記載する
会社設立時の現物出資は、出資する財産を定款に記載する必要があります。
金銭出資の場合は出資金額を記載するだけですが、現物出資を行う際には下記の項目を定款します。
- 現物出資をする人(発起人)の氏名
- 現物出資を行う財産の「名称、製造番号、メーカー名」「数量」「価額」
- 現物出資をした人へ割り当てる株式数
ここで記載する財産の「価額」は、購入したときの金額ではなく、現物出資を行う時点での「時価」となります。
そのため、現物出資を行う財産の全てを、その時点で時価評価を行う必要があります。
時価評価の価額が適正でないと、他の株主と不平等が生まれ、後々のトラブルにつながったりします。
また、現物出資を行う場合には、「不足額担保責任」という責任が課されます。
定款に記載した価額が、実際の時価と大きく異なる場合に、不足額を支払う義務を負うというものです。
不動産などは自分で時価評価することが難しいため、不動産鑑定士などの専門家に評価を依頼するのもひとつの手段です。
時価評価した財産の検査をする
現物出資をする場合、裁判所に検査役選任の申し立てを行い、財産の価額が適正に設定されているか検査してもらう必要があります。
ただし、以下のいずれかに該当するには、検査役の検査は不要となります。
- 引受人に割り当てる株式の総数が直前の発行済株式総数の10分の1以下である場合
- 現物出資財産につき、設立時定款に記載された価額の総額が500万円以下である場合
- 市場価格のある有価証券につき募集事項の決定の際に定められた価額が①その決定日における最終市場価格又は、②公開買付等にかかる契約における価格のいずれか高い額以下である場合
- 現物出資財産につき、設立時定款の決定の際に定められた価額が相当であることについて、弁護士、公認会計士、税理士等の証明(不動産については、更に不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合
- 会社に対する弁済期到来済みの金銭債権につき募集事項の決定の際に定められた価額が、会社における負債の帳簿価額以下である場合
検査役に調査を依頼するには、費用もかかるうえに時間もかかってしまいます。
時間的、金額的コストを抑えるには、現物出資の財産の価額の総額を500万円以下にすることを検討しましょう。
事業で使用する財産で現物出資する
現物出資できる財産は、その会社の事業で使用するものに限られます。
税務上の取り扱いと注意点
現物出資を行った際、出資した人に税金がかかるケースがあります。
どういった場合に課税されるのかを説明しますので、現物出資をするか否かの判断材料にしてください。
現物出資した人に所得税が課税されるケース
現物出資した財産は、出資を行った個人側からすると、その会社に対して財産を「売却」したとみなされます。
現物出資を行った財産の価額が取得価額より大きい場合には、売却益が発生しますが、その売却益に対して所得税等がかかる可能性があるのです。
個人で事業を行っていた方であれば、事業用資産を現物出資した場合、所得税のほか、消費税も課税対象となります。
また、現物出資した財産が不動産の場合には、出資を受けた会社は不動産取得税がかかります。
そのため、現物出資する財産の種類、その価額の設定には、税金の影響を考慮しておく必要があります。
現物出資を検討する際のポイント
現物出資という制度を使えば、財産を出資することで資本金を増額できます。
その結果、会社設立後に顧客との取引がしやすくなる可能性があります。
これから会社を設立しようとしている方は、必要に応じて現物出資も検討してみましょう。