役員報酬とは、役員や取締役に支払われる給与を指します。
役員報酬を一度決定すると、そのあと約1年間は変更することが難しいため、事前に十分な理解が必要です。
役員報酬と法人利益のバランスをとるには、最適な役員報酬の設定が求められます。
本記事では、役員報酬を設定するためのポイントについて解説しますので、ぜひ参考にしてください。

役員報酬設定のポイント

役員報酬を設定する際には、税務上の損金算入要件を満たすことはもちろん、会社の財務状況や経営方針にも合致した額であることが重要です。
以下、役員報酬を設定する上でのポイントを紹介します。

1. 損金算入要件を満たすか確認する

役員報酬の損金算入要件とは、会社が支払う役員報酬の一部を経費として認めてもらうための条件のことです。
役員報酬は利益調整に利用されやすいことから、損金として認められるためには以下のような条件が課せられています。

①定期同額給与

役員報酬は、基本的に毎月同額で支払われる「定期同額給与」でなければ損金として認められません。
この規定により、会社が自由に報酬額を変えて、利益調整することを防止しています。
ただし、やむを得ない事情があった場合に金額変更が認められることがあります。

② 事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、支給額や支給時期を事前に税務署に届け出ておくことで、その支給額も損金として認めてもらえる制度です。

③業績連動給与(大企業のみ)

大企業に限り、業績に連動する形で支給される給与(業績連動給与)も損金算入が認められる場合があります。
株主や取締役会の決議を経て承認され、かつ会社の業績に応じて変動する報酬です。
ただし、この制度を適用できるのは、条件を満たす一部の大企業に限られています。

2. 経営の安定性を考慮する

役員報酬と法人利益のバランスを適切に設定することは、会社経営において非常に重要です。
法人税や所得税の負担を最適化し、経営の安定性を保ちながら、役員に対して適切な報酬を支給することが望まれます。
以下、役員報酬と法人利益のバランスについて詳しく説明します。

①法人/個人の税負担のバランスを考える

役員報酬を増やすことで会社の法人税を抑える効果が期待できますが、役員報酬を受け取る側の個人には所得税や住民税がかかります。
そのため、法人税と個人の税負担を総合的に見て調整することが重要です。

法人税率:
法人税は、法人の課税所得に対してかかります。
役員報酬を高く設定して法人の課税所得を減らすことで、法人税は下がりますが、役員側の所得税や住民税は増加します。

所得税率:
役員報酬が高額になると所得税が累進的に高くなるため、個人の税負担が増します。
役員報酬を減らし会社に法人利益として残すほうが、税効率が良いケースもあります。

住民税:
住民税は、都道府県や市町村が徴収する税金で、前年の所得に基づき計算されます。
役員報酬の額が増えると、それに伴って住民税も上がるため、役員報酬を計画する際には住民税も考慮する必要があります。

②会社の財務健全性を保つ

役員報酬を高く設定しすぎると、会社の手元資金が減り、財務健全性に影響を及ぼす可能性があります。
企業が成長するためには、一定の利益を会社に残し、投資資金や運転資金として活用することが大切です。

内部留保:
法人利益を適度に残すことで、将来的な投資や事業拡大、資金繰りの安定に役立ちます。
税引後利益でいくら内部留保を残したいかの目標設定を行い、事業計画を作成し、予実対比で利益を守る体制を整えることが重要です。

資金繰りの安定:
会社の経営状況や今後の展望を考慮し、役員報酬と法人利益のバランスをとることで、安定した経営基盤を確保します。
キャッシュフロー計算書や資金繰り表を用いて、運転資金やフリーキャッシュフローを把握することが重要です。

③社会保険料への影響を考える

役員報酬が増えると、役員個人が支払う社会保険料が増加しますが、会社の負担分も増える点に注意が必要です。
社会保険料は給与総額に基づくため、企業の負担を考慮してバランスを調整します。

3.税務リスクを避けるための適正額を設定する

役員報酬が高すぎると「過大役員報酬」とみなされ、一部が損金不算入となり、法人税負担が増える可能性があります。
税務署は、業務内容や業績に対して不相応に高い役員報酬を「過大」と判断するため、相場や実績に基づいて適正額を設定する必要があります。
税務調査の際に適切であると証明できるよう、根拠を明確にしておきましょう。

4. 税制優遇を活用する

役員報酬に関しては、税務上の優遇制度がいくつかあり、適切に活用することで法人税や所得税の負担を軽減できます。
以下に、主な税制優遇措置とその内容を説明します。

①役員退職金の損金算入

役員退職金は、一般の給与とは異なる優遇が設けられており、会社の損金に計上しやすい特徴があります。
役員退職金として支給する金額は損金算入が認められるため、法人税を抑えることが可能です。
また、役員の個人側でも退職所得控除が適用されるため、所得税の負担が軽減されます。

②役員社宅の活用

役員に社宅を提供し、会社がその費用を負担することで、役員の個人負担を抑えながら節税効果を得られます。
役員が社宅を利用する場合、通常の住宅費よりも低い賃料負担で済むため、実質的な報酬の一部として役員の生活を支援できます。

③確定拠出年金(401K)

日本での確定拠出年金(401K)は、個人の老後資金形成を支援するために税制優遇が設けられた年金制度です。
拠出金は会社が負担することができ、その負担金額は役員の給与として課税されないため、役員の所得税や住民税、社会保険料を軽減する効果があります。
また、企業が負担する拠出金は会社の損金として計上できるため、法人税負担の軽減にもつながります。

まとめ

役員報酬の設定は、税務上の要件を満たしながら、会社の経営状況や業務内容に見合った額を設定することが重要です。
また、税制優遇も意識して、事業計画や税金シュミレーションを早期に考え、総合的に判断することが理想です。
税理士の助言も参考に、長期的な視点で役員報酬を決めていくとよいでしょう。