会社法の改正などに伴い、起業することのハードルが以前よりも低くなりました。
この記事では、会社設立前に売上が生じた場合に、「売上の計上時期はいつになるのか」や「その売上は個人と法人のどちらに帰属するのか」といった点について、法律的な側面から解説します。

設立期間中の売上の取り扱い

会社を設立する際に、最初から取引先が決まっているケースも少なくありません。
個人事業主として事業を行っていた方は、はじめから取引先が存在しますし、会社勤めから独立して起業する方でも、ある程度受注の目途がたっているという方が多くいます。

会社を設立するには、会社の種類にもよりますが、約1ヵ月の期間を要します。
本来、会社が設立してからでないと、法人というものが法律上存在しないので、会社としての活動ができません。
しかしながら、取引先の事情などによって、会社の設立日よりも前に取引を行わざるを得ず、売上が生じてしまうケースがあります。

会社設立前に生じた売上は、個人と会社、どちらの売上として計上されるのでしょうか。
国税庁が法令解釈の通達を出しているので引用します。

法令解釈通達 第6節
(法人の設立期間中の損益の帰属)
2-6-2 法人の設立期間中に当該設立中の法人について生じた損益は、当該法人のその設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することができるものとする。ただし、設立期間がその設立に通常要する期間を超えて長期にわたる場合における当該設立期間中の損益又は当該法人が個人事業を引き継いで設立されたものである場合における当該事業から生じた損益については、この限りでない。(昭55年直法2-8「十」により追加、平12年課法2-7「七」、平19年課法2-3「十二」により改正)

(注)
1 本文の取扱いによって申告する場合であっても、当該法人の設立後最初の事業年度の開始の日は1-2-1によるのであるから留意する。

2 現物出資により設立した法人の当該現物出資の日から当該法人の設立の日の前日までの期間中に生じた損益は、当該法人のその設立後最初の事業年度の所得の金額の計算に含めて申告することとなる。

国税庁サイトより

この通達によると、会社設立の準備中に発生した売上や経費は、第1期目の損益に含んで計算してよいとされています。
そのため、会社の設立が完了していないからといって、個人の売上として確定申告をする必要はありません。
※個人事業を引き継いで会社設立する際は異なる(後述)

ただし、会社の設立期間が、通常の場合に要する期間を超える場合は、この限りではないとされています。
準備期間が長くなってしまった場合、その期間中に発生した売上は、個人の売上として確定申告せねばなりません。

気になるのは、会社設立に「通常要する期間」とはどれくらいなのか、ということです。
一般的に、会社の設立にかかる期間は1か月程度です。
では1か月を超えたら個人の売上になるのかというと、必ずしもそうではありません。
一口に法人といっても、株式会社や合同会社、社団法人、NPOなど、複数の種類があり、設立期間が比較的長くなるものもあります。
株式会社の株主や取締役に海外のメンバーがいて、書類のやり取りなどに時間を要するといったケースもあるでしょう。
そのような合理的な理由があれば、会社設立期間が1か月を超えてしまっても、税務署に認められることがあります。

個人事業を引き継いで会社設立する際の注意点

会社を設立する際、もともと個人事業だったものを法人化する法人成というケースがあります。
この場合、設立準備中の売上の取り扱いは、一から起業する場合と異なりますので注意が必要です。
先ほど引用した国税庁の通達には、

当該法人が個人事業を引き継いで設立されたものである場合における当該事業から生じた損益については、この限りでない。

とあります。
先ほど、会社の設立準備中の売上については、会社の第1期目について含んで計算してよいとありましたが、法人成の場合は個人事業の売上に含めて計算しなければいけません。
たとえ合理的な理由があっても、売上や経費を法人の損益に含めることはできず、個人の損益として確定申告する必要があるので注意しましょう。

会社設立前に売上を確保することの重要性

起業を考える多くの人にとって、会社設立前に売上を上げることは重要です。
設立前から売上をあげることで、起業後のビジネスが安定しやすくなります。
なぜなら、会社設立後に必要な資金の一部を確保することができたり、初期のビジネス展開がスムーズに進む可能性が高くなったりするからです。
いきなり会社を設立するのではなく、まずは個人事業としてスタートするのもひとつの選択肢だと思います。
周囲に先輩起業家や専門家がいれば、積極的に相談してみましょう。