会社を設立する上で、社会保険の手続きは必須です。
特に、これから起業を考えている方や新たに従業員を雇う予定の経営者は、社会保険に関する知識を正しく理解しておく必要があります。
本記事では、社会保険の基本的な仕組みや加入手続きのポイント、注意すべき事項についてわかりやすく解説します。
初めて手続きを行う方でも安心して取り組めるよう、具体的な流れや必要書類についても詳しくご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
社会保険とは?
社会保険とは、働く人やその家族が安心して生活を送るために用意された国の制度です。
病気やケガ、失業、老後など、人生におけるさまざまなリスクに備えることができます。
社会保険には主に以下の5種類があります。
- 健康保険:医療費の負担を軽減します
- 厚生年金保険:老後の生活費や障害年金を提供します
- 雇用保険:失業時に給付金を受け取ることができます
- 労災保険:仕事中や通勤中のケガや病気を補償します
- 介護保険(40歳以上が対象):介護が必要になった際の費用を支援します
社会保険料(健康保険・厚生年金)は、会社と従業員が折半して負担します(ただし労災保険は全額会社負担)。
給与から従業員負担分を控除し、会社が会社負担分と合わせて納付をします。
設立後の社会保険料は、想像以上に会社の資金繰りを圧迫する可能性があるので、役員報酬の設定は、社会保険料も考慮しながら検討しましょう。
会社設立時に知っておきたい社会保険の重要性
社会保険の加入は、単なる法的な義務にとどまらず、従業員の福利厚生を充実させるための基盤であり、企業としての信頼性を高める重要な要素でもあります。
本章では、社会保険加入の法的な側面や、従業員と会社それぞれにとってのメリットについて詳しく解説します。
社会保険加入の法的義務
法人を設立した場合、たとえ代表者1名だけの会社であっても社会保険への加入が必要です。
社会保険には健康保険や厚生年金保険が含まれ、労働者が働きやすい環境を提供するために必要な制度です。
加入を怠ると、罰則や過去の未納分の保険料を請求されることがあります。
未加入のリスクは非常に大きく、行政指導や罰則を受ける可能性があります。
また、労働基準監督署からの指摘や従業員とのトラブルが発生する可能性もあるため、会社運営において避けられない責任と言えます。
法的な義務を果たすことは、会社の信用を保ち、円滑な運営を続けるために欠かせません。
会社設立時には、社会保険加入の手続きを確実に行いましょう。
社会保険が従業員に与えるメリット
社会保険は、従業員にとって大きなメリットを提供します。
まず、健康保険によって医療費の負担が軽減されるため、従業員が安心して働ける環境を提供できます。
また、厚生年金保険により、将来的な老後の生活資金が保障されるため、長期的な安心感をもたらします。
さらに、出産手当金や育児休業給付金など、ライフステージに応じた支援も受けられるため、従業員の仕事とプライベートの両立がしやすくなります。
また、これらの制度は、従業員のモチベーションを高め、離職率の低下にも寄与します。
会社を成長させるためには、従業員が満足して働ける環境を整えることが重要です。
社会保険の加入が会社にもたらす利点
社会保険に加入することは、会社としても多くのメリットがあります。
まず、優秀な人材を採用しやすくなる点が挙げられます。
社会保険が整備された会社は、働く環境が整っていると認識され、求職者にとって魅力的に映ります。
また、社会保険に加入していることは、取引先や顧客からの信頼を得る一助にもなります。
法令遵守を徹底している企業は、ビジネスパートナーとしての信頼性が高まり、事業の拡大や安定にも寄与します。
社会保険の負担は一見するとコストに見えるかもしれませんが、長期的な視点で見ると、会社の発展において欠かせない投資といえます。
社会保険加入の対象と条件
社会保険は、すべての従業員が平等に福利厚生を受けられるよう設けられた制度ですが、加入には一定の条件が設けられています。
正社員だけでなく、パートタイマーやアルバイトも条件を満たせば対象となります。
加入が必要な会社:
法人全般(代表者のみでも適用)
加入が必要な方:
①健康保険・厚生年金の加入対象要件(役員は給与をもらう場合強制適用)
1)正社員(フルタイム従業員)
2)1週の所定労働時間および1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上のパートタイマー・アルバイト
②雇用保険の加入対象要件
1)1週間の所定労働時間が20時間以上であること
2)31日以上の雇用見込みがあること
※労災保険は原則として 一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。労働者の雇用形態に関わらず加入が必要ですが、会社が全額労災保険料を負担します。
社会保険加入の手続きの流れ
社会保険の加入手続きは、下記の流れに沿って進めることになります。
従業員の入退社や給与変更、扶養者の追加などがあった場合は、速やかに届出を行う必要があります。
健康保険と厚生年金
1.必要書類の準備
手続きには以下の書類が必要です。
- 登記簿謄本
※90日以内に取得した原本
※法人事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合、「賃貸借契約書のコピー」等、事業所所在地の確認できるものを別途添付が必要 - 法人番号指定通知書のコピー
※コピーが用意できない場合は、「国税庁法人番号公表サイト」で確認した画面の印刷で も可能。 - マイナンバーもしくは基礎年金番号
2.年金事務所での手続き
- 新規適用届
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- 扶養者がいる場合は、健康保険被扶養者(異動)届
- 口座振替を希望する場合は、健康保険・厚生年金保険保険料口座振替納付(変更)申出書
【提出先】
最寄りの年金事務所に以下の書類を提出します。
※ネットで「〇〇市 管轄年金事務所」と検索をすると、会社所在地の管轄年金事務所を確認することができます。
【提出期限】
事実発生から5日以内。
ただし実務上は謄本の取得は設立後すぐには取得できませんので、謄本取得後速やかに提出する必要があります。
【提出方法】
これらの書類は、日本年金機構のサイトからダウンロードできます。
郵送提出もしくは、直接持参して提出をします。
労働保険(雇用保険、労災保険)
1.必要書類の準備
手続きには以下の書類が必要です。
- 登記簿謄本
- 法人印
- 入社日からの出勤簿
- 賃金台帳※加入までの給与の支払がなければ不要
- 労働者名簿
- マイナンバー
- 前職がある従業員を雇用する場合は、離職票
2.労働基準監督署での手続き
労災保険の適用手続きとして、以下を提出します。
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
※この時、謄本は原本を返却するように伝えてください。ハローワークの手続きでも必要になるからです。
※労働保険概算保険料申告書を提出するときに、その場で保険料の納付をしないといけないので、現金を持参する必要があります。
3.ハローワークでの手続き
雇用保険に関する手続きはハローワークで行います。
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
【提出先】
労災保険は、最寄りの管轄労働基準監督署へ、雇用保険は最寄りのハローワークに提出します。
【提出期限】
初めて労働保険に加入する場合は10日以内。
雇用保険の資格取得届は、雇用してから翌月10日以内に提出。
【提出方法】
いずれの書類も労働基準監督署とハローワークにおいてあるので、その場で記入押印して提出をします。
社会保険に関するよくある質問
社会保険はいつから加入する必要がありますか?
社会保険は、会社設立後すぐに加入手続きを行う必要があります。
特に、法人として事業を開始した場合や従業員を雇用した場合は、法律で社会保険への加入が義務付けられています。
手続きが遅れると、未加入期間分の社会保険料を遡って請求されるだけでなく、延滞金が発生する可能性もあるため注意が必要です。
事業を円滑に運営するためにも、設立直後から速やかに手続きを進め、正確に対応することが重要です。
社会保険料はどのように計算されますか?
社会保険料は、従業員の給与(基本給や通勤手当など)を基に計算されます。
給与額に応じて標準報酬月額が決まり、それに基づいて健康保険料や厚生年金保険料が算出されます。
これらの保険料は、地域や年度ごとに定められた保険料率を適用し、会社と従業員で半額ずつ負担します。
また、標準報酬月額の等級は毎年9月に決定されますが、その基準となるのは4月から6月の間に支払われた給与の平均額です。
この期間に一時的な手当や特別な給与が支給されると、等級が不必要に高くなり、保険料負担が増える可能性があるため注意が必要です。
正確な計算のため、最新の保険料率や給与の支給内容を確認しておくことが重要です。
前職の社会保険を継続できますか?
退職後も前職の社会保険を継続できる「任意継続被保険者制度」という仕組みがあります。
この制度を利用すると、最大2年間、前職で加入していた健康保険を継続することが可能です。
ただし、継続には以下の条件があります。
- 資格喪失日から20日以内に所定の書類を提出すること
- 退職前に継続して2か月以上、その健康保険に加入していたこと
なお、保険料は全額自己負担となるため(会社負担分がなくなる)、金額が増える点には注意が必要です。
退職後も同じ保険を使いたい場合や、新しい保険に加入するまでのつなぎとして検討してみてください。
国民健康保険に加入している場合は?
個人事業主から法人化(法人成り)し、社会保険に加入する場合、現在加入している国民健康保険から健康保険への切り替えが必要です。
ただし、手続きの順序には注意が必要です。
先に国民健康保険を脱退してしまうと、健康保険への加入手続きが完了するまで保険証がない期間が発生してしまうことがあります。
これを避けるため、健康保険に加入した後に国民健康保険を脱退するようにしてください。
国民健康保険の脱退手続きは、お住いの市区町村の保険年金業務担当窓口で行うことができます。
手続きの際には、必要書類を確認しておくとスムーズです。
パートタイマーも加入対象ですか?
はい、パートタイマーでも所定労働時間や給与が一定の条件を満たす場合、社会保険への加入が必要です。
具体的には、以下の条件を満たす場合に加入対象となります:
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 月額賃金が88,000円以上(年収で約106万円以上に相当)
- 勤務期間が1年以上見込まれる場合
- 従業員が501人以上の企業に勤務している場合(中小企業でも労使合意があれば適用可)
これらの条件に該当する場合、正社員と同様に健康保険や厚生年金に加入する義務があります。
パートタイマーとして働いている方やその雇用主は、条件を確認し、適切に手続きを行う必要があります。
労働保険に加入できる人は誰ですか?
労働保険の加入対象は、原則として従業員(正社員、パートタイマー、アルバイト)です。
労働者として雇用契約を結び、賃金を受け取っている人が対象となります。
一方で、役員や役員の親族で業務に従事している場合は、雇用契約がないため、労働保険の加入対象外となる点に注意が必要です。
ただし、役員であっても実質的に従業員と同様の業務を行い、賃金が支払われている場合は、例外的に加入対象となるケースもあります。
詳細は管轄の労働基準監督署やハローワークで確認してください。
2か所で給与をもらっている場合は?
複数の会社から給与を受け取っている場合でも、社会保険は1か所のみの加入という扱いはできません。
それぞれの勤務先で社会保険の加入要件を満たしていれば、両方の会社で加入手続きが必要です。
その際、「社会保険二以上事業所勤務届」という届出書を提出し、保険料や給付について調整を行います。
この手続きを適切に行うことで、保険料の二重徴収や不利益を防ぐことができます。
具体的な手続きについては、各会社の担当者や年金事務所に相談してください。
電子申請にはどのようなシステムがありますか?
電子申請の代表的なシステムとして、政府が提供する「e-Gov」があります。
このシステムを利用することで、社会保険の加入手続きや従業員の入退社に伴う各種届出をオンラインで簡単に行うことができます。
紙の書類提出が不要になり、手続きの効率化が図れるため、多くの企業で活用されています。
また、申請内容がデータとして保存されるため、後からの確認や修正が容易な点もメリットです。
社会保険料の支払い方法にはどのような選択肢がありますか?
社会保険料は、口座振替、銀行窓口での振込、または納付書を用いた支払いが可能です。
ただし、口座振替が最も便利でミスを防げるため、多くの企業が利用しています。
社会保険料の口座振替を設定する際、一部のネット銀行(例: PayPay銀行、楽天銀行)は引落口座に対応していない場合があります。
そのため、口座振替を希望する場合は、ネット銀行以外の都市銀行や地方銀行などの金融機関で口座を開設することをおすすめします。
また、口座振替の設定が反映されるまでには1~2か月程度かかるため、早めに手続きを行い、その間は納付書で支払いを行う必要がある場合がある点にも注意してください。
社会保険は会社の成長を支える制度
社会保険は、従業員の安心と福利厚生を支える重要な制度であり、会社の健全な成長にも欠かせません。
初めての手続きは煩雑に感じるかもしれませんが、必要なステップを一つずつ適切に進めることで、スムーズな事業運営が可能になります。
手続きに不安がある場合は、社会保険労務士などの専門家に相談し、確実に対応することをおすすめします。
この記事が、社会保険に関する疑問や不安を解消し、会社設立に向けた力強い一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。