「一般社団法人」は近年、注目される法人形態のひとつです。
本記事では、一般社団法人の概要やメリット、設立手順について解説します。
法人の設立を検討中の方や、法人の制度に興味がある方はぜひ参考にしてください。
このページの目次
一般社団法人とは?
一般社団法人とは、非営利法人の一種ですが、収益事業を行い利益を上げることも認められています。
ただし、その利益を構成員に分配することはできず、次年度以降の活動資金として再投資される点が特徴です。
この点が、利益を株主に分配する株式会社などの営利法人との大きな違いと言えるでしょう。
一般社団法人の設立は比較的簡単です。
最低でも議決権を持つ社員が2名と、1名以上の理事がいれば設立可能で、行政の許認可は不要です。
手続きとしては法務局への登記だけで完了し、資本金の準備も不要です。
さらに、事業内容に関しても高い自由度があり、法律に違反しない限り、幅広い分野で活動できます。
この柔軟性は、さまざまな目的を持つ団体にとって大きな魅力となっています。
以下は、一般社団法人と他の法人との違いを比較した表です。
一般社団法人 | 株式会社 | |
---|---|---|
目的 | 非営利(営利も可) | 営利目的 |
利益の分配 | 不可 | 株主への配当可能 |
設立の要件 | 社員2名・理事1名 | 資本金1円以上発起人&役員1名以上 |
一般社団法人 | NPO法人 | |
---|---|---|
活動内容 | 法律に反しない限り自由 | 特定非営利活動が必須 |
税制上の優遇 | 法務局での登記のみ | 所轄庁の認証が必要 |
一般社団法人の普通法人型、非営利型について
一般社団法人は、法人形態の1つであり、営利を目的としない組織として設立されます。ただし、非営利性を原則としながらも収益事業を行うことが認められています。
そこで、「普通法人型」と「非営利型」に区別され、それぞれの型ごとに課税範囲が定められています。
「普通法人型」と「非営利型」
種類 | 課税対象 |
普通法人型 | 法人が得た全ての所得が課税対象となる |
非営利型 | 収益事業での所得のみ課税対象となる |
また、非営利型はさらに2つにわけられます。
①非営利性を徹底する法人 | 事業の利益や利益の分配を行わない |
②共益活動が目的の法人 | 会員間の共通利益を得るために活動する |
①非営利性を徹底する法人
目的:事業活動の中で得た利益を分配せず、公益的な目的のために活用します。
要件:定款に以下を定めること。
剰余金(利益)の分配を行わないこと。
解散時の残余財産を国・地方公共団体や一定の公益的な団体に贈与すること。
上記に違反する行為を行ったことがないこと。
理事とその親族等である理事の合計数が、理事の総数の1/3以下であること。
①共益活動が目的の法人
目的:会員間の共通利益を図る活動を行うことに重きを置きます。
要件:会員の共通の利益を図ることを主たる目的としていること。
定款に会費の定めがあること。
主たる事業として収益事業を行っていないこと。
定款に以下を定めること。
特定の個人や団体に剰余金の分配を行わないこと。
解散時の残余財産を特定の個人や団体に帰属させないこと。
特定の個人や団体に特別の利益を与えたことがないこと。
理事とその親族等である理事の合計数が、理事の総数の1/3以下であること。
このようにわかれているため、非営利型の要件や、収益事業の範囲が注意ポイントとなってきます。
収益事業と非収益事業について
法律上、収益事業に該当するのは以下の34業種に限定されており、これらに該当しない活動であれば課税対象になりません。
物品販売業 | 不動産販売業 | 金銭貸付業 | 物品貸付業 |
不動産貸付業 | 製造業 | 通信業 | 運送業 |
倉庫業 | 請負業 | 印刷業 | 出版業 |
写真業 | 席貸業 | 旅館業 | 料理店業その他の飲食店業 |
周旋業 | 代理業 | 仲立業 | 問屋業 |
鉱業 | 土石採取業 | 浴場業 | 理容業 |
美容業 | 興行業 | 遊技所業 | 遊覧所業 |
医療保健業 | 技芸教授業 | 駐車場業 | 信用保証業 |
無形財産権の提供を行う事業 | 労働者派遣業 |
上記の34業種に該当しない事業や、対価性のない寄付金や補助金などの収入が非収益事業として取り扱われ、法人税の課税対象にはなりません。
消費税の取り扱いについて
普通法人型・非営利型に関係なく、消費税の課税ルールは他の会社と同様です。
基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超える場合、消費税の申告納税義務が発生します。
補助金や寄付金など、対価性のない収入については消費税が課されません。
ただし、消費税の計算上、調整が必要になる場合があります。
都道府県民税、市町村民税の取り扱いについて
均等割の納付義務があります。
ただし、自治体によっては「収益事業を行わない」などの条件を満たせば均等割が免除される場合があります。詳しくは管轄自治体に確認することが必要です。
一般社団法人を設立するメリット
一般社団法人は、社会的信用の向上や事業の自由度の高さ、税制上の優遇など、さまざまな利点をもつ法人形態です。
本章では、一般社団法人を設立することで得られる主なメリットについて解説します。
メリット1.社会的信用の向上
法人格を取得することで、任意団体に比べて社会的な信頼性が格段に高まります。
一般社団法人としての活動は、法律に基づいて運営されていることを示すため、取引先や協力者に対して安心感を与えることができるのです。
特に、法人名義で契約を結ぶ際や、銀行口座を開設する場合には、法人であることが大きな信用の後ろ盾となります。
法人格を持つことで活動の幅が広がり、長期的な事業運営の安定にもつながります。
メリット2.幅広い活動が可能
一般社団法人は、営利法人と非営利法人の中間的な存在として、営利・非営利を問わず多岐にわたる活動を展開できます。
例えば、収益事業を通じて資金を調達し、その利益を社会貢献活動に再投資することも可能です。
営利法人と同様のビジネスモデルを採用して利益を追求できる一方で、利益を構成員に分配しないことで、社会的価値を優先した事業運営が実現します。
また、法的制約が少なく、教育、福祉、地域振興、文化活動など、さまざまな分野で活動できる点も魅力です。
メリット3.税制上の優遇措置
非営利型の一般社団法人は、税制面でも有利な制度が適用されます。
収益事業から得た利益にのみ課税されるため、事業収入のうち、会費や寄付金、補助金といった収益事業に該当しない収入は非課税となります。
この仕組みにより、社会貢献活動や非営利目的のプロジェクトを進める際には、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
こうした税制上の優遇措置により、限られた資金でも持続可能な活動を展開しやすくなります。
メリット4.設立コストの低さ
一般社団法人の設立には資本金が不要であり、比較的低コストで始められることも大きなメリットです。
通常、法定費用として約11万円が必要となり、登記の際に必要な印紙代や定款認証の費用を含めても、総額は15万円程度に収まります。
さらに、設立手続き自体もシンプルで、最低限必要なメンバーがそろえば、法務局への登記だけで設立が完了します。
こうしたコストと手続きの手軽さから、法人化のハードルが低く、資金や人材に限りがある場合でも設立を検討しやすいのが特徴です。
初期費用を抑えつつ、スムーズに法人格を取得したい団体や個人にとって、大きなメリットと言えるでしょう。
一般社団法人の設立手順
一般社団法人を設立するには、いくつかの基本的な手順を踏む必要があります。
以下では、その具体的な流れを詳しくご紹介します。
設立手順1.社員及び理事の確保
一般社団法人の設立には、最低2名の社員と1名の理事を確保することが必要です。
社員とは、法人の意思決定を行う「社員総会」で議決権を持つメンバーを指します。
社員総会は法人運営の中核的な役割を果たす機関であり、社員が法人の基本方針や重要事項を議論し決定します。
また、理事は法人の運営を実際に執行する責任者です。
理事の選任は社員総会で決議されるため、設立の段階で信頼できる人材を確保しておくことが重要です。
設立手順2.定款及び各種書類、法人印の作成
法人の基本的な運営ルールを定めた「定款」を作成します。
この書類には、法人名、事業目的、本店所在地、社員や理事の情報、事業年度などを記載します。
定款は法人の活動を規定する最も重要な書類であり、設立後も運営において重要な役割を果たします。
そのため、慎重に内容を検討する必要があります。
また、定款やその他の書類に押印するため、法人印(代表印)の作成も欠かせません。
法人印は設立後の契約や申請にも使用するため、事前に準備しておきましょう。
設立手順3.公証役場での定款認証
作成した定款は、公証役場で認証を受ける必要があります。
これは、定款が適切に作成されているかを確認し、公的な効力を持たせるための手続きです。
認証費用として約5万円が必要です。
公証役場では事前予約が推奨される場合もあるため、手続き前に確認しておくとスムーズです。
電子定款を利用すると印紙税4万円を節約できるため、電子申請を検討するのも一つの方法です。
設立手順4.設立登記の申請
公証役場で認証を受けた定款をもとに、法務局で設立登記を行います。
登記申請には、認証済みの定款、登記申請書、必要な添付書類、法人印が必要です。
また、登録免許税として6万円が発生します。
申請から登記完了までには通常1週間程度かかりますが、この期間中に法人名の変更や補足事項が必要になる場合もあるため、十分に確認しておきましょう。
登記が完了すると、法人格が正式に認められます。
設立手順5.各種届出の提出
設立登記が完了した後は、税務署や都道府県税事務所、市区町村役場などへの届出を行います。
具体的には、「法人設立届出書」や「給与支払事務所等の開設届出書」などが必要です。
また、社会保険や労働保険の加入手続きも法人の状況に応じて行う必要があります。
これらの届出が完了すると、法人として正式に活動を開始することができます。
まとめ
一般社団法人は、非営利活動を目的としながらも収益事業が可能な法人形態として、多くの注目を集めています。
その設立手続きの簡便さや活動の自由度の高さといったメリットは、幅広い事業や社会貢献を目指す方々にとって魅力的です。
ただし、利益を構成員に分配できないという特徴も併せて理解することが大切です。
これから起業や法人化を検討している方は、自身の事業目的や活動内容と照らし合わせながら、一般社団法人が最適な選択肢であるかを慎重に検討してみてください。
設立にあたっては、必要に応じて専門家のアドバイスを活用することで、スムーズかつ的確に準備を進めることができます。